普段小説やエッセイを読まないのですが、トライしてみたいなぁと、複数のストーリーが入ってる「Story Seller(ストーリーセラー)3」を古本屋で購入しました。
その本の中で沢木耕太郎さんが老舗の鮨屋(すしや)に先輩に連れて行ってもらった時の話が印象的でした。
相手に恥ずかしい思いをさせない心遣い
親方がおすすめとして握ってくれた寿司を見て、「これは何ですか?」と答えた沢木さん。
聞いた瞬間、一緒にいた先輩は少し困ったような顔になったのが分かったそうです。
その寿司はエンガワだったのですが、先輩の反応を見て「こんなのも分からないヤツと思われたかな…」と恐縮してしまう沢木さん。
しかしその方の反応とは対照的に、親方はとても嬉しそうに答えてくれたそうです。
経験の少ない若造がおずおずと訊ねてきた。それに対して、相手を恥ずかしがらせるようなことはせず、さりげなく教えてくれた。
スマートですよね。
「相手に恥ずかしい思いをさせない」という心遣いがさりげなくできる方ってなかなか少ないと感じます。
あえて自分のプライドを守ったり、上下関係を見せつける為に相手に恥ずかしい思いをさせたり、同じフレーズでもニュアンスで「こんな事も知らないなんて」と伝える方も哀しいかな、少なくないです。
沢木さんは一連のやりとりに対する親方の対応を「カッコイイ」と感じたそうです。
素人の質問にプロが答えるのは当たり前
親方さんの考えはこうです。
「あたしたちは魚のプロです。素人に魚のことを訊ねられて、きちんと説明するのは当たり前のことです。」
素人が質問するのは当たり前だしどんどんウェルカム。そしてプロとしてやっている以上その質問に応えるのは当然のこと、というプロとしてのプライドがひしひしと感じられます。
「でも、知らないことを真っ直ぐ訊いてくれる方は、あまりいないもんなんですよ。」
このフレーズが1番印象的でした。
誰だって分からないことを知られるのは怖いし、質問して恥をかくのも怖いですよね。
そんな時は知ったかぶりをしたり、適当に流して話を合わせたりしてしまうこともあります。
未知のことは聞くこと自体恥ずかしいし、聞いた後にどんな反応されるかも怖い。
でも知ったかぶりをしても結局プロにはお見通しなわけで…
それなら素直に「知らない!教えてください」と聞いてしまった方が気持ちいいな、と感じました。
誰だって最初は初心者
学生の頃に聞いて以来好きな言葉で、何か新しいことに挑戦、模索している時に前を向かせてくれる言葉です。
鮨屋に連れて行ってくれた先輩も昔は誰かに連れてきてもらった過去がある。ということですよね。
分からないことを聞かずに流してしまうより、一時的に恥ずかしい思いをしたとしても聞いたことで当事者になるし、記憶に残ります。
知っていて当たり前という呪縛
以前、社内研修の講師をした際に「ある程度の社歴があるのに今更こんなこと聞けない」と尻込みしてしまって手を上げられない方って多いなと感じました。
「社会人何年目だから◯◯は知っていて当たり前」という考えで身動きが取れなくなっている
のです。
「配属先の業務内容によって1人1人経験値も知識も違うのは当たり前のこと。
知らないことはこの研修で聞いて解決したらいいし、反対に疑問に感じたことや経験したことはみんなのものだから他の人にもそれを共有して教えてほしい」と折に触れて伝えました。
そして小さな質問や疑問を集めて、都度全体に共有していました。
研修の回数を重ねていくうちに、最初はなかなか出なかった質問や疑問点も「なんでもいいから1人1つ教えてください」と募集したら質疑応答の場が活発になっていきました。
「こんなことでも質問してもいいんだ。」
「小さなことでもちゃんと答えてくれる」
と安心感を感じられるって大事ですよね。
仕事でも家庭内でも他愛のない話、質問に対して相手が恐縮することなくオープンな状態で受け入れたいし、私自身も後輩や子供たちにどんどん分からないことは真っ直ぐ聞ける大人になりたいです。
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